月刊誌「SCIENCE OF WAR」のインタビュー記事より抜粋


さて、世界中のありとあらゆるPMCで活躍する兵器開発者の方々に、彼らが扱う最先端兵器について語って頂くこのコーナー。

今週は大手PMCの一社であるN&R社、その兵器開発部門 航空兵器開発設計局で局長を務めるアラン・R・リーチ局長にお話をお伺いしました。
リーチ局長は御多忙な身のため残念ながら直接お会いすることは叶いませんでしたが、貴重な時間を割いた上での電話インタビューに答えてくださいました。

―――お忙しいなかで時間をとって頂き、ありがとうございます。早速ですが質問をよろしいでしょうか。

リーチ はい、どうぞ。社の機密上答えられない部分も出てくるとは思いますが、可能な限り答えましょう。

―――ありがとうございます。では、まずはリーチ局長が開発されたフライング・ダッチマンについてですが………

リーチ 「フライング・ダッチマン」? ………ああ、もしかして「デウス・エクス・マキナ」のことですか?

―――ああ、はい、そうです。飛行空母デウス・エクス・マキナのことです。これは失礼しました。

リーチ いえ、構いませんよ。
そうですね。確かに空母の正式名称はデウス・エクス・マキナですが、世間では空飛ぶ幽霊船、フライング・ダッチマンの呼び名の方が有名ですからね。
なにせ社内でもその名で呼ぶ社員がいるくらいですから(笑)。ここではわかりやすい方で、フライング・ダッチマンの名で呼びましょうか。

―――ご配慮、ありがとうございます。では、フライング・ダッチマンについてですが、その開発経緯などをお話し頂けますか。

リーチ 開発経緯ですか。うーん、いきなり難しい質問ですね。

―――それは機密上の問題ですか。

リーチ いえ、そういう訳では。
飛行空母フライング・ダッチマンは様々なコンセプトのもとで開発されたものですから、大筋のストーリーのようなものが無く、ちょっと話が組み立てにくいんです。
例えば、現在の各PMCが保有する空中戦艦の類は、全てエイリアンが残したラバーズが基本となっているでしょう。数に限りがある、ね。
我が社はそういった有限の資源に頼る兵器開発ではなく、エイリアンの技術を応用した、人間が量産可能な純地球産兵器の開発に努めています。
フライング・ダッチマンはそういった意味で、あくまで人間が作る空中戦艦というコンセプトに拘った一面があります。
他にもステルス・クラウドや電磁カタパルトなどの先進技術の実験場でもありますし。
ですが、そうですね。やはりフライング・ダッチマンを語る上で欠かせないのは、無人機部隊の母艦として開発されたという事実でしょうか。

―――フライング・ダッチマンを旗艦とする「ゴースト部隊」のことですね。

リーチ はい、その通りです。有人機を改造して作られた無人急襲機は、フライング・ダッチマンからの遠隔操作によって運用されます。
フライング・ダッチマン無人機の母艦として部隊を作戦空域まで運搬するほか、空母に搭載された人工知能ユリック」によって無人機を管制する役割を担っています。
そしてまたフライング・ダッチマン自体も、そのほとんどの機能をユリックに任せて無人化しています。
これは我が社が掲げた次世代の戦争の未来像でもある「あらゆる戦争行動の無人化」というコンセプトのもとに開発されました。

―――あらゆる戦争行動の無人化、という意味について詳しくお聞かせください。

リーチ その辺りは私に聞くよりも、広報宣伝部門の方が分かりやすく教えてくれると思いますが。
ですが、発案者の私が説明できないというのも笑い種ですしね。私なりに噛み砕いてお話しましょう。
昨今、各国の正規軍に代わって急速に成長したPMCは、その人材の供給源を正規軍に頼っています。半年前の大戦の影響により軍縮が進められた正規軍からは、
多くの人材が流れてきました。各PMCはそれらの優秀な人材によって成り立っています。ですが、これには大きな問題があります。
その問題というのは、この人材の需要と供給の関係は永遠には続かないということです。今でこそ軍縮によって人があぶれているものの、それらはいつか均衡し、供給はストップします。
となると問題になるのが人材の確保です。もう優秀な人材は正規軍からは流れてきません。そこでPMCは自ら人材を訓練し、優秀な兵士に鍛える必要があります。
そうなってくると、正規軍で既に訓練された優秀な兵士を安く、それも即戦力として迎え入れることができていた状況が一変してしまいます。何の経験もない一般人を一から教育するしかありません。そしてそれには巨額の費用と莫大な時間が掛ります。
しかも考えてみてください。金と時間を掛けてせっせと育て上げた優秀な兵士も、死んでしまえばそこで終わりになってしまいます。
特に急襲機のドライバーに関しては、その傾向が顕著に表れるでしょう。
ドライバーの育成には普通の兵士よりもずっとコストが掛ります。そうして手塩にかけて育て上げたドライバーも、空の上で散ればあっという間に無に帰してしまう。
利益を第一に考えるPMCにとって、これは致命的な問題です。リスクとリターンとが全く吊り合ってないのですから。
そこで考えられたのが、そんなデメリットばかりの人間を切り捨てた、無人兵器による部隊の設立でした。

―――それがゴースト部隊設立のきっかけになるのですね。

リーチ そうです。今でこそ急襲機1機あたりの単価は有人機よりも高いんですが、それは無人機がまだ産まれたばかりだからです。
量産ラインを確保すれば、単純な兵器の値段は有人機と変わらないものになるでしょう。そして無人機には、一番高価な部品である「人間」が不必要です。
しかも無人機は撃墜されても、データのバックアップをとることにより何度でも復活できる。
金と時間を掛ければ掛けるほど無人機は強くなり、そしてそれが失われることは永遠にありません。
人間を必要としない無人機こそが、次世代の戦争を担う主役になるんです。

―――ですが、ゴースト部隊は期待されていたほどの戦果を挙げられていないのでは、という評価もありますね。

リーチ おっと、これは手厳しい(笑)。確かにそういった評価はありますね。
その理由としては、現在のゴースト部隊はAIの学習の途上、それも初期の頃にあるから………と言いたいところですが、それでは言い訳にしかなりませんね。
そもそも現在のゴースト部隊は、その全てがフライング・ダッチマンに搭載されたAI、ユリックによって遠隔操作されています。
複数機を同時に、しかも遠隔操作で操る以上、どうしてもそこに「隙」が生まれてしまうんです。これは欠点と言ってもいい。
ですが、我が社もこのまま放置している訳ではありません。現在、私の設計局でこの問題を克服する研究が進められています。

―――それはもしや、噂されている新型急襲機のことですか。

リーチ なかなか鋭い質問ですね。ま、そこはノーコメントということで。

―――噂によると、リーチ局長は「R-X66」の無人機バージョンを開発されているとのことですが。

リーチ うーん、残念ながら違いますね。確かにダブルシックスを無人化して配備する計画はあるんですが、肝心のダブルシックスの設計図が手に入らない状況なので、その可能性は否定せざるを得ませんね。ですが、考え方としてはあながち間違いではないでしょう。
ダブルシックスは人間の脳だけを積むことにより、人間の肉体限界を超えた運動性能を手に入れました。そしてそれは、無人機にも言えることではないでしょうか。

―――つまり察するに、リーチ局長が現在研究しているのは「有人機を超える無人機」ということですか。

リーチ 無人機部隊が実現した現在、次に目指す目標はそれ以外にないと私は考えていますね。

―――ですが、現代には有人機でも凄まじい性能を持つ機体が存在しますよ。たとえば、「ICKX兵工技研」の「Y1」など。

リーチ 最近よく聞きます。「お前がいくら優秀な無人機を作ろうと、Y1には勝てないだろう」と。
まぁ無理もないでしょう。なにせ彼らは半年前の戦争で大活躍した英雄企業ですから。
中でもY1は敵の旗艦を単身撃破したほどの武勲がある以上、有人機としては最高性能と認めざるを得ません。
ですが、所詮有人機は有人機。人間は空を飛ぶようにはできていないんです。
私の研究する「究極の無人」が完成すれば、彼らの圧倒的な優位性はことごとく崩壊するでしょう。

―――その究極の無人機というのは、いつ頃お目にかかる日が来るのでしょうか。

リーチ そう遠くない未来だと私は確信しています。いえ、もしかしたら、もう戦場に現れているかもしれませんよ。
もっともそれを見た人間は、それが生涯最後の光景となってしまうでしょうがね。

―――最後に、何か一言お願いします。

リーチ 「戦争の無人化」は人類の目指すべき未来だと私は思っています。もしも世界中の全ての戦争行動が無人化されれば、もう尊い命を無闇に失わなくて済みます。
そしてそれを実現する存在こそ、世界でも有数のPMCであるN&R社でしょう。いえ、世界有数だからこそ、私達はこれをリードしていかなければならない。
私はN&R社の一員として、その礎になっていきたいと願っています。

―――ありがとうございました。